コロナ禍でも歯医者に行くべき理由、歯周病で死亡リスク8.8倍差の調査結果

   

今年3月の国会で、口腔ケアが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)合併症に効果があるとの医学調査が取り上げられました。特に「デルタ株」などの変異株が出現してきた今、厚生労働省は3密(密閉・密集・密接)を避けるだけでは感染対策は万全ではなく、「これまで以上の感染予防の徹底」を国民に呼びかけています。しかし一向に口腔ケアの大切さが取り上げられないことに、歯科医師としてもどかしく感じます。今こそ本当に必要なコロナ対策について解説します。(監修/歯科医師・幸町歯科口腔外科医院・院長 宮本日出)

新型コロナウイルスの侵入経路は舌の表面にもある

病原体が体内に侵入して病気の症状を引き起こすことを感染症といいますが、その病原体には細菌やウイルスなどが挙げられます。

その両者の大きな違いは、細菌は単独で増殖して自活できるのに対して、ウイルスは自分自身で増殖する機能がなく、一定期間がたつと死滅すること。そのためウイルスは生物の体中に侵入して、寄生虫のように生物の能力を利用して増殖する必要があります。ウイルスの大きさは種類によって細菌の5分の1〜100分の1、髪の毛の400分の1〜1000分の1ととても小さいので、ウイルスの存在を認識して予防することは困難です。

 新型コロナウイルスは、エンベロープというウイルスの体の中心を覆う殻と、その殻から出ている手のようなスパイクという細胞を開ける鍵、そして体内に遺伝子という設計図を持っています。鍵の形はウイルスによってそれぞれ異なるのですが、鍵と一致する鍵穴の細胞から侵入。殻から自らの設計図を生物の細胞内に撒き散らし、細胞の能力を使わせて設計図通りのコピーウイルスを大量に作らせます。コピーウイルスはさらに周りの細胞に侵入し、同様にコピーウイルスを生産させます。これが新型コロナウイルスの「感染」のしくみです。

新型コロナウイルスが持つ鍵に合う細胞は人間の鼻粘膜や目など体の各部にありますが、口の中の特に舌の表面にも多くあり、ウイルスの侵入経路になっています。新型コロナウイルスの症状の一つに味覚障害がありますが、これは舌の表面から侵入するウイルスの猛威によって味を感じるレセプター(味蕾細胞)が破壊されるために起こるのです。

 こうやって体内に侵入した新型コロナウイルスによって、肺の細胞で大量にコピーウイルスが作られます。呼吸が肺から気道、そして鼻腔・口腔を行き来する中でコピーウイルスが唾液に混ざり、体外に飛び散って他者に感染。肺はコピーウイルスを作る作業で疲弊してしまい、肺機能障害を起こします。

国会でも取り上げられた口腔ケアによるコロナ対策効果

このように、新型コロナウイルスは口腔からの感染もあります。その感染の予防となり、また万が一に感染した場合に合併症対策となるのが口腔ケアです。

 下の表をご覧ください。

【歯周病と新型コロナウイルス感染症】

歯周病がない人はコロナが重症化する割合が2.3%なのに対して、歯周病がある人は12.8%と5.6倍も高い。また、死亡するリスクに至っては8.81倍もの差があります。歯周病がコロナの病状に大きく影響していることは明らかです。

実は2021年3月19日の参議院予算委員会で、山田宏議員が「歯科医療とコロナ」をテーマとして取り上げ、上表のデータが示されました。

 この一連の質疑応答の中で、田村憲久厚労大臣は「歯科医院は感染症に対して非常に注意深く対応している」と発言。コロナ対策を担当する西村康稔経済再生担当大臣は「歯科治療で感染が広がったという報告は今まで受けたことがない」「口腔の健康が健康管理の基本」と答弁しました。

 また、菅義偉総理は「口腔の健康の保持増進を図ることは、健康で質の高い生活を行う上で極めて重要な役割を果たしていると認識している」とコメント。さらには「コロナ禍においても国民のみなさんが必要な受診や歯科健診等を行うよう、国としても今働きかけをしている」と宣言しました。

このメッセージは国民のみなさんに届いているでしょうか?

 舌表面の侵入口は、通常は薄膜で覆われていてウイルスから隠れています。ところが口腔内が汚れていると、この薄膜が剥がれてウイルス感染しやすくなるとこれまでも指摘されてきました。また、歯周病になると歯周病菌が血液に混ざり、菌が血管を傷付けて血栓ができやすくなります。そのため、コロナが重症化して起こる「サイトカインストーム」でも血栓リスクは高くなるとされていました。

歯周病菌は口腔内“最恐”の細菌
忙しい人におすすめの口腔ケアとは?

歯周病菌は全身の多くの病気に影響を与える、口腔内で“最恐”の細菌です。血液に混ざった菌はその毒性で全身を傷付け、現在まで認知症やガンなど数多くの病気の発症・進行を助長していることが知られています。最近は虫歯菌も脳内出血と深い関係があることが分かってきました。

 歯ぐきに特別な外傷などの出血がない限り、歯磨きの時に出血した経験のある40歳以上の人は歯周病にかかっています。「今は血が出ていないからもう治った」と勘違いしないでください。歯周病に自然治癒はなく、たまたま出血が見えないだけです。

 自分で日常的に行うセルフケアと、定期的に歯科医院で行うプロケアの両方を行うことが口腔ケアです。忙しい日々をお過ごしの人も、ぜひかかりつけの歯科医を持って通ってください。これは健康寿命を延ばすことにもなります。

プロケアでは、歯科医院専用の器具を使って、歯の周りに菌膜を形成して頑固にこびり付いた本当に悪い菌を剥ぎ取る治療(バイオフィルム治療)を行います。「剥ぎ取る治療」と聞くと、歯へのダメージが大きく痛そうなイメージを持つかもしれませんが、実際には歯の表面をツルツルに磨く治療です。痛いどころかむしろ気持ち良い治療ですから、安心してください。

 歯周病は寝ている間に進行するので、歯周病ケアは寝る前の歯磨きが有効です。時間を20分以上かけて、しっかりと歯を磨きましょう。

 歯磨き粉や液体歯磨きは、菌に浸透するIPMP(イソプロピルメチルフェノール)が配合されたものがオススメです。歯ブラシは毛先が細くなったやわらかめのもので歯に対して45度の角度をつけて、毛先が少したわむほどの力(約150g)で、丁寧に歯と歯の間を磨きます。

またガムを噛むことで一時的に免疫力が上がることも研究で分かっています(出典:ガム咀嚼による唾液中S―IgA 分泌の影響―オープンランダム化クロスオーバー試験―。松井美咲、ほか。2161-2166、48、2020、薬理と治療)

 ビジネスパーソンを支える健康維持の第一歩は口腔ケアです。これからは3密対策プラス「口腔ケア」で、これまで以上に感染予防を徹底しましょう。

◎宮本日出(みやもと・ひずる)歯科医師/幸町歯科口腔外科医院・院長日本顎関節学会・代議員・指導医・専門医、厚生労働省認定歯科医師卒後臨床研修指導医教官。1965年、石川県金沢市に三人兄弟の末っ子として生まれ、猛勉強を始め、愛知学院大学歯学部に合格。のちに歯科医師免許取得。現在では、国内外に160篇以上の論文を発表し、複数のメディアにも登場するカリスマ歯科医となる。近著に『「デブ味覚」リセットで10日で‐3kg! レモン水うがいダイエット』(あさ出版)