海外赴任が決まったら

   

歯科医師からのお願い  

まず、家族とともにできるだけ早く歯科医院を受診しましょう。 定期的に歯科健診(予防)を受けていることはとても重要です。 海外赴任は珍しくない 近年、海外渡航者が増加しています。海外渡航者の多くは観光が目的の比較的短期の渡 航ですが、約10%程度は海外出張です。

海外赴任が決まると、現地の情報が不明なこと などから不安になることが多いかと思います。その中でも不安なのが医療関係の情報では ないでしょうか。 しかし、今では多くの人が海外赴任した経験があり、探してみれば赴任 先の情報を持っている人が必ず見つかるはずです。まずは経験者に相談しましょう。

赴任先で異なる医療事情  

日本では国民皆保険で、いつでもどこでも医療を受けられますが、諸外国ではまったく 異なります。慣れてしまえば問題ないのですが、渡航前に予備知識がないととても戸惑い ます。 たとえば米国では医科の場合、最初にかかるのは家庭医で、一般的には家庭医で治療さ れます。家庭医が必要と判断した場合や入院が必要な場合、家庭医が契約している病院を 利用して家庭医や当該専門医が治療に当たります。日本ではまだ一般的ではありませんが、 米国などでは病院はオープンシステムと呼ばれる制度で運営されており、一般開業医は診 療所しか持っていませんが、必要に応じて契約している病院に自分の患者を入院させて、その病院で治療に当たります。

また、米国では専門医制度が確立しています。 歯科においてもほぼ同様です。日本ではほとんどすべての歯科治療がかかりつけ歯科医 において行われます。しかし、米国では一般的な歯科治療は一般歯科において治療されますが、歯科でも専門医制度が確立しており、一般歯科医から紹介されて、神経を抜く処置 は歯内療法科、入れ歯やかぶせ物は補綴科、抜歯は口腔外科など専門歯科医にて治療が行 なわれます。一本の歯の治療にいくつかの専門歯科医を受診する必要がある場合があります。

日本の常識は世界の非常識 

日本では医療制度が確立しており、どこでも誰でも安心して歯科治療を受けられます。 これは日本国内だけの常識です。それも国民皆保険のため、実際の医療費のほぼ30%を負担するだけで、十分な治療が受けられます。しかし、このような制度をもつ国は極めて稀です。歯科治療がほとんど自費の国もありますし、健康保険制度があっても、低所得者 だけの制度であったり、一定の歯科疾患しか保険で治療できないなどの制約があったりします。

また、歯の病気の状態にもよりますが、アメリカでは1本の歯の治療に10万円と 言われています。日本では歯科治療の水準が世界的にも高く、健康保険でほとんどの歯科 疾患が治療可能で、しかもその医療費は安価です。時間的余裕があるなら、海外赴任する 前や一時帰国したときに日本でのあなたのかかりつけ歯科医に受診することをお勧めしま す。費用だけでなく言葉の問題でも安心して治療が受けられるかもしれません。

海外赴任した人が困ったこと  

海外赴任経験者のアンケートでは70-80%の人は赴任中に歯科に関連する問題が生 じたと回答しています。海外では言葉の問題などからなかなか歯科治療を受けることがためらわれるようです。考え方によっては、もし、その国で歯科治療に対して自分の入って いる健康保険が利用できるならば、その国で歯科治療を受けるのも良い経験になるのでは ないかと思います。しかし、赴任当初で言葉が十分でないときなどはとても不安があると 考えられます。たとえ日常会話が十分に出来ても、医療関係の言葉はあまり日常では使わ れない専門的な言葉が多く、自分の症状も担当医師や歯科医師に正確に伝えられないだけ でなく、医師の話も理解できにくいこともあります。心配な人は末尾の参考書籍を持って いかれることを推奨します。

赴任が決まったらまず歯科健診をあなたのかかりつけの歯科医で受けましょう。 

海外赴任を経験した人たちのアンケートからは歯科に関連する問題が多く寄せられています。海外赴任前の健康診断はいろいろ行なわれていますが、歯科健診はとても重要であ るにもかかわらず、まだあまり行われていないようです。海外赴任が決まれば、できるだ け早くあなたのかかりつけの歯科医院を受診しましょう。

硬組織としての歯には血管がな く歯科材料でむし歯が治るわけではありません。自分では気づかない重大な問題があれば、 治療には数ヶ月かかることもあります。年1-2回定期的に歯科医院で健診を受けていれば、 その日だけか数回の受診で治療は終わることも多いですが、何年も歯科医院に受診してい ない場合は、数ヶ月も治療にかかることがあります。定期健診(予防)を常日頃受けてい ることはとても重要です。

海外赴任が決まると企業では一般的な医科健診はありますが、歯科の健診はあ りません。医科健診を受けたときに歯科健診も受けましょう。

海外赴任が決まったら派遣先の保険制度や歯科医療制度なども調べましょう。  

赴任前はとても不安なものです。しかし、この頃は多くの人が海外赴任しますので、赴 任先の医療制度や健康保険制度、歯科医療状況などはすでに赴任したことのある経験者か ら話を聞いたり、在日本の大使館や保険会社などに問い合わせれば、ある程度の情報は得 られると思います。日本歯科医師会でも世界の歯科事情と安心ガイドという雑誌を発行し ていますので、かかりつけの歯科医院でお問い合わせください。

インターネットの利用  

現在ではインターネットで色々な歯科に関する情報を入手することが出来ます。海外で 歯や口の病気で困ったときにはインターネットで検索するのも有効です。一般的なことは インターネットで情報収集できます。しかし、実際の治療についての相談がしたいときに は、もしかかりつけの歯科医がインターネットを使っていれば、そのアドレスを聞いてお いて、インターネットで相談するのも良いでしょう。かかりつけの歯科医はあなたの歯や 口の状態を把握していますので、実際に診察するほどの正確さはありませんが、適切なア ドバイスが得られると思います。

参考文献   

医療に関係する言葉は日常会話ではあまり使わない言葉が多く、日常会話がある程度で きるようになっても専門用語が使われることもあり、なかなか難しいものです。そこで、 医療関係機関を受診するときに便利な冊子をいくつか参考文献として提示しました。医療 に関する会話では1、2、3などのうち一冊を持っていれば助かると思います。また、医療制度や歯科事情としては4や5が参考になると思います。赴任前の準備も含めた情報は 7などが役に立つと思います。

櫻井健司 監修:外国で病気になったときあなたを救う本 第4版、 ジャパンタイムズ編、ジャパンタイムズ、東京、1995.
ミッキィー マツウラ フェルト:アメリカで困らないための本<健康・医療編>    ジャパンタイムズ、東京、1989.
尾崎哲夫:病気になっても困らない英会話、南雲堂、東京、1996.
日本歯科医師会編:海外派遣労働者のために 世界の歯科事情と安心ガイド、 日本歯科医師会、東京、2002.  
萩原理恵監修:地球の歩き方 旅のドクター、ダイヤモンドビッグ社、東京、 1998.
吉田けい子編・著:11カ国語対訳歯科診療会話集、口腔保健協会、東京、 1999.
市瀬晴夫著:海外健康ハンドブック、日本経団連出版、東京、2004.